2

スペイン・バスク地方、美食の地をめぐるあれこれとシードル・その1

スペイン・バスク地方は美食の地

スペインとフランスの国境地域に広がるバスク地方は、豊かな経済基盤と、海の幸山の幸に恵まれ、スペイン語とは異なったバスク語を公用語とするなど独自の文化と伝統を守り続ける一方で、進取の気性にも富んだバスク人はスペインで最も早くから美食の伝統を築いてきました。バスク地方のギプスコア県の県都であるサン・セバスチャンはミシュランの星の密集度が高く世界屈指の美食の街です。

バスク地方では沿岸部を中心とする「海バスク」の魚介料理と、内陸部の「山バスク」の野菜や肉料理があります。豊かな食材を活かし新しいものを柔軟に取り入れるバスク人が伝統的なバスク料理を温故知新でどんどん進化させていきます。

バスク地方のアルコール

美食に欠かせないのはやはり、美味しいものをさらに美味しく引き立てるアルコールです。スペインは言わずと知れたバル文化が発達している国です。そして、そのバルのおつまみとして出されるピンチョスの発祥の地であるバスク地方はたくさんのバルが軒を連ねます。バスク地方のバルで飲まれる地元のアルコールはどんなものがあるのでしょうか。

 

チャコリは古くからのバスクで飲まれている微発泡の白ワインです。ギプスコア県のチャコリは、グラスの上のほうの、ぐっと高い位置から注ぐことが多く、バルのところどころでその光景を見かけます。

 

同じように空気を含ませながらコップに注ぐバスク産のシドラ(Sidra)(シードル)は酸味が効いた少しクセのある味。瓶を高く上げて腰の下あたりに持ったコップに注ぎ泡が消えないうちに飲むのがおいしいと言われています。*スペインではシードルはシドラ(Sidra)と呼ばれています。

 

アラバ県で作られているリオハ・アラベッサの赤ワインも、バスクを代表するお酒です。さらにバスクで生まれた赤ワインをコーラで割るカリモッチョ、そして小さなボデガグラスに入ったビール、スリート。

 

スペインのバルでは一軒のバルには長居しないではしご酒をするのが常識とされています。ですから、一軒のお店でつまむお料理もお酒も少ないくらいでちょうど良いです。こうしたバスク地方のアルコールは一杯のグラスに入っている量が少なく、チキテオ(バスク語ではしご酒の意)するには、そんなに酔うこともなくちょうどいい量です。

バスクの遠洋には船乗りたちの命綱のシードルをお供に

美食の地バスク地方の地元のお酒であるシドラ(シードル)はかつて飲料水の役目を果たしていました。

バスクの沿岸はかつて捕鯨が大変盛んでした。その歴史は古く9世紀ごろからバスクの漁師たちはすでに鯨を追い始めていたといいます。それはヨーロッパの捕鯨の基本となり、また世界でも商業として捕鯨の始まりとなりました。


12世紀には、石鹸、ろうそく、ランプなどにも使われていたクジラ油を中心に、スカートやコルセットの芯として不可欠だったクジラヒゲ、クジラ肉などが、スペインを始めフランスなど他の国と取引され、捕鯨はバスクの主要産業となっていきます。


その後、果敢なバスクの漁師たちはビスケー湾沿岸からなる遠いカナダの東海岸に位置するニューファンドランド近海まで鯨を獲りに行くようになります。その時に、船の中の飲料として役に立ったのがシドラ(シードル)なのです。 バスクの船乗りたちは長い航海もビタミンC豊富なシドラのおかげで壊血病(*)にかかることがほとんどなかったといわれています。 

 

(*)ビタミンCの欠乏のため、全身の倦怠感や疲労感、食欲不振に続いて、からだの各部位からの出血といった症状が起こる病気。

バスク地方の美食倶楽部は女人禁制?バスクのガストロノミー協会 Las sociedades gastronómicas vascas

さすが美食の地と言いましょうか、老若男女、食への関心が強いようでバスクの男は料理上手と言われています。確かにバスク地方の家庭料理は豪快でシンプル。男の料理というレシピが多いようです。そして、バスクにはかつて女子禁制だった美食倶楽部という集まりが1500以上もあるそうです。(現在では、女性は美食倶楽部内で料理はできないが、その場と料理を楽しむことはでき、問題なく美食倶楽部に入ることができます。)

 

ガストロノミー協会のデータによると、バスク地方には1,552のガストロノミー協会が存在します。ギプスコアに785、ビスカイアに458、アラバ・アラバに214あり、会員数は3万2千人以上です。ギプスコアにこれらの協会が集中しているのは、19世紀半ばにこの歴史地区で生まれたからです。まさにそのドノスティア(*1)サン・セバスチャンで、最初の美食倶楽部が誕生しました。 

 

その昔、バスクの漁師たちは遠洋まで魚を追って何ヶ月も家を留守にしていたので、バスクの女たちは女家長となり家を守ったといいます。そんなことからお母さんたちは強くなり、怖い女家長から逃れるために男たちは美食倶楽部を作ったといわれています。 

 

あるいは工業化が進み、田舎から都会への人口移動が進んだことで、農村部のシードルハウスを引き継いで、テーブルを囲む都会の出会いの場として、このようなスペースが出現したともいわれています。19世紀半ば以降、美食倶楽部はバスク歴史地域の他の地域にも広がってきました。美食家にとって美食倶楽部は、他では味わえないリラックスした雰囲気の中で、食べ、歌い、遊び、議論し、要求が高く社交的な美食家のパラダイスなのです。 

 

現在のバスクの美食倶楽部ではその地域社会に向けた一連のサービスを提供していました。そのため、スポーツや文化などに関するさまざまなチャリティーイベントを開催するのが一般的でした。ドノスティア (*1) の大祭であるタンボラーダ(*2)で、これらの協会が重要な役割を担っています。

美食倶楽部の活動内容 

美食倶楽部の本部がある建物は txokos「トクソコ」と呼ばれ、完全なキッチン、広いダイニングルームのテーブルと椅子、中にはテレビやボードゲームまで完備しているところもあります。まるでレストランのように路面店にある場所ですが、美食倶楽部会員しか入れないプライベートな場所です。いずれも鍵があり、好きなときに開いてアクセスすることができます。

 

 美食倶楽部の仲間内で小グループに分かれ、トクソコを予約してディナーやランチを企画する。また、タンボラーダの日(*2)には、メンバー全員(数百人いることもある)が一緒に食事をするなど、特別なイベントもあります。調理を担当するのは美食倶楽部のメンバーのみです。 

地元の旬の食材を使用しバスクの伝統料理、家庭料理を作ります。美味しいものを愛する人だけでなく、美食倶楽部にはいつも料理上手な人がたくさんいて、同じ倶楽部、あるいは近隣の倶楽部のグループ間でレシピを交換することもよくあることなのです。 

 

*1ドノスティア : サン・セバスティアンのバスク語 Donostia 

*2タンボラーダの日(El día de la tamborrada):サン・セバスチャンの守護聖人を称えるこの祭りは、毎年1月20日にギプスコアの首都で行われます。サン・セバスチャンは、スペインで1平方メートルあたりの価格が最も高い都市であることに加え、最も美しい都市のひとつであるという栄誉も持っています。 参照:Tradiciones & Fiestas

スペイン・バスク地方、美食の地をめぐるエピソードはいかがだったでしょうか。実は美食倶楽部だけに終わらず、サン・セバスチャンでは美食を研究する学術機関も存在します。次回のブログ、スペイン・バスク地方、美食の地をめぐるあれこれとシードル・その2では美食の学校とバスク地方の家庭料理とシードルのペアリングについてお伝えします。お楽しみに! 

400年の伝統的製法で今も作り続けられているバスク地方のシードル、イサステギ

美食の地スペイン・バスク地方のお酒であるシードル・ブランドのイサステギは醸造所から半径15㎞以内の伝統的な品種だけを使い、400年前から続く農法と製法で、純粋にリンゴを発酵させたシードルをつくります。無濾過で非加熱の為、750ml1本当たりのイサステギ・シードルには、生きた有用菌も食物繊維、リンゴ1.1㎏分のポリフェノールなどの栄養素が含まれます。

甘いりんごよりも、渋いりんごに多く含まれるリンゴのポリフェノールは、発酵によって増加します。(*リンゴポリフェノールの抗酸化物質は葡萄に含まれる抗酸化物質のレスベラトロールの3倍と言われています。)リンゴ由来の爽やかな酸味が食事を引き立て、なおかつリンゴポリフェノールやクエン酸、ビタミン・ミネラルを多く含む健康にも良いシードルです。


「バスクのナチュラルシードル(D.O. Euskal Sagardoa)」には厳しい基準があり、この基準を満たしていないと「バスクのナチュラルシードル(D.O.Euskal Sagardoa)」とは呼ぶことができません。バスクのナチュラルシードルと呼ばれるための基準について詳しくはこちら。

イサステギ・酸化防止剤無添加 ナチュラル・シードル

イサステギ・酸化防止剤無添加ナチュラル・シードルは、バスク産のシードルであり、20種類ものリンゴの天然果汁だけでつくられた、素朴なリンゴのお酒です。原料はリンゴのみ。甘くなく、食事に合い、ペクチンやリンゴ・ポリフェノールなど、抗酸化作用があるリンゴ健康成分もそのままです。

Comments are closed.